東京大学 先端科学技術研究センターの西成活裕教授が 2016年に日本物理学会誌に投稿された「渋滞のサイエンスとその解消法」の内容をご紹介します。
論文の要点は「スローイン・ファストアウト」
🔵 前の車との車間距離が約40mまで縮まってくると渋滞気味になる。車間距離が縮まるとブレーキの連鎖も出てくるので、速度を調整して車間距離を40m以上に保つことが肝要。
🔵 渋滞の先頭はおよそ時速20km(分速0.33km)で削られていく。渋滞の先頭に来た際には速やかに速度復帰することで時速20kmを少しでも早くできれば、その分、早期の渋滞解消につながる。
著者・論文の紹介
著者 : 西成 活裕 NISHINARI Katsuhiro 教授
所属 : 東京大学 数理創発システム 分野 寄付研究部門 先端物流科学
専門 : 非線形動力学・渋滞学
論文名 : 渋滞のサイエンスとその解消法
掲載誌 : 日本物理学会誌 Vol.71 , No.3 , 2016
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補足 : 2021年9月「歩きスマホによってなぜ人は衝突しそうになるのか」を研究した成果により、同年度のイグノーベル賞、動力学賞を他の3人の研究者とともに受賞。
論文の要約
🔵 渋滞の定義 「車の密度の増加とともに交通量が減少する状態」
🔵 1kmに約25台の車の密度以上になると、流れは渋滞相(交通量が減少する状態)に変化する。車間距離で言えば約40mである。
🔵 渋滞の波は流れの中を上流へと伝わっていく衝撃波として解析することができ、その衝撃波が進む速さは不思議なことにどこでも時速約20kmである。
🔵 渋滞の先頭はおよそ時速20km(分速0.33km)で削られていく。そのため例えば長さ1kmの渋滞であれば、後ろから全く車が来なければおよそ3分(分速0.33km×3分=0.99km)で消滅する。
🔵 あえて少し減速して車間距離を空け、渋滞の最後尾までの到着を遅らせる走りをすれば、渋滞の成長を防ぐことができ、うまくタイミングが合えば渋滞を消すことも可能である。ブレーキの連鎖を止めるクッションの役割を果たすことにもつながる。
🔵 「スローイン・ファストアウト」渋滞にはゆっくり入り、渋滞からは早く抜け出す走行をすれば、最後尾の成長を抑えるとともに、渋滞の先頭部を早く削っていくことのダブル効果で、渋滞を効果的に短くできる。
最後にひとこと
渋滞は避けたいと思う人が殆どだと思うが、社会レベルでも「経済的な損失」のほか「二酸化炭素の排出」といった環境面への悪影響もあり、解消するべき重要な課題である。
この論文のように様々な研究がなされており、理論的な部分は明確になってきているが、渋滞解消に繋げる(現場に落とし込む)のが難しいと感じる。
自動運転のレベルも上がってきたことであるし、高速道路を走る車の何割かでも速度制御をAIが最適化すれば、この論文のような研究の成果を具現化できる日は近いのではないかと期待するところである。
by まさいち